T「侵略者再び」へ


U「濡れ場…?!」


「さて、次はみくるちゃんの番ね」

 ハルヒは心行くまで魔女ルックに身を包んだ宇宙人に賛辞を送ると、
未来からやって来た戦うウエイトレスに満面の笑顔を向けた。

「ええと、今度はなにをすればいいんですかぁ」

 すでに心の準備はできていたらしく、すぐに朝比奈さんは超監督に指示を仰ぐ。
それにしても、あの方もすっかりSOS団の一員である。
団長が頬を緩めるだけでも怯えていた時期があったことを考えれば、
こなれてきたと言うべきか、馴染んできたと言うべきだろうか。
まあ、あれだけむちゃなことをやらされ続けていれば、
誰でもある程度は耐性ができてしまうのかもしれん。

 もっともハルヒに言わせれば、これも団員教育の賜物よ、ということになるんだろうな。
何しろこいつは常に王様ゲームのキングみたいなもので、
たまには俺たちにも出番を回してくれと思わなくもないが、
いやいや、命令することに慣れていない人間がそんな立場に就いてもろくなことはないと思うぜ。

 しかし涼宮ハルヒはいつだって俺たちの想像を超えた発言をするもので、

「SOS団を代表する萌えキャラとして、濡れ場を演じてもらうわ」
「へ?」

 愛くるしいSOS団きっての癒し系である先輩が
思わず間の抜けた返事をしてしまったのも無理はない。

「だから濡れ場」
「ええと、それはそのぉ」

 ほんのりと顔を赤らめる朝比奈さんに、ハルヒは立てた人差し指をぐるぐるさせながら言った。

「ええ、きっとみくるちゃんが思い浮かべているもので合ってると思うわ。
一応補足しておくと、恋愛関係にある男女の性愛に伴う行為と言うのが辞書的な意味ね」

 すらすらと淀みなく説明する言葉はまったく揺るぎないもので、
まあ、事前に調べておいたんだろうな。ご苦労なこった。

 それはさておき、だ。
さすがにこれは聞き捨てならなかった。全校きってのアイドルに何をさせようってんだ。

「阿呆かお前は」

 だが、呼びかけに振り向いたハルヒは傲岸不遜という四文字を体現するかのように、
不敵な面構えでじろりと俺を見やる。

「監督をいきなり阿呆呼ばわりとはいい度胸ね、キョン」
「当たり前だ」

 いったいどこの世界に高校の学園祭で発表する映画に濡れ場を用意するヤツがいる。
はっきり言って正気の沙汰とは思えん。

「それはこっちの台詞よバカキョン。
あんた、まさか古泉くんとみくるちゃんが大っぴらに公園でできないようなことをするとでも?」
「違うって言うのか」

 だったら濡れ場というのはなんなんだ。
さっき言葉の意味を説明してたから、別の意味で言ったわけでもないだろうが。

「ふん。そういうのもありかな、と思わなくはないけど。
客が飛びついてくるのは間違いないんだからね。
でも、あんたが思い浮かべているような内容とは少し違うわよ」
「違う?」

 ハルヒは視線を俺の後方へと向けると、ぱっと明るい笑顔をみせた。

「鶴ちゃん」
「なんだい、ハルにゃん」

 打てば響くとはまさにこのことで、即座に鶴屋さんが応える。

「みくるちゃんの相手は鶴ちゃんにお任せするわ」
「ほっほう」

 たったそれだけのやり取りで途端に目を輝かせ始めたふたりの傍らで、
朝比奈さんは顔を赤らめたまま黙って耳を傾けていた。
さすがに少し不安そうな表情だったが、あいにくきちんと事態を把握できていないため、
励ましの言葉をかけることはできそうにない。

 だが、待てよ。ハルヒは今なんて言った?
朝比奈さんの相手は鶴屋さんにお任せ、だと? それはつまり……。

「ところでハルにゃん、よければあたしに白羽の矢を立てた理由を教えてもらえるかいっ」
「あたしがやってもよかったんだけど、鶴ちゃんの方がみくるちゃんのツボを押さえてそうだし、
兼任でやるのもどうかと思って。ここは初志貫徹、監督業に専念することにしたのよ」

 適当なことを言っているようでいて、つい納得してしまうのはこいつの頭の回転がいいせいか。
だが、俺はあえて断言する。十中八九、今の台詞は思いつきで言ったに違いない。

「なるほどねっ。それなら期待に応えなくちゃだね」

 鶴屋さんはわずかに口の端を緩めて艶っぽく笑い、手首や足首を回してストレッチを開始する。

「これでわかった?」
「ああ」

 発想としてはなかったが、同性同士でも濡れ場と呼んで問題はないのだろう。
しかし、いずれにしても校内で放送する内容じゃないと思うのは俺だけなのか?

 おい、古泉。お前もなんか言ったらどうだ。

「レフ板の準備はOKです」
「わかったわ。それじゃ、キョン。カメラもすぐにスタンバって頂戴」

 結局、異論を唱えたのは俺一人に終わり、撮影はすぐに再開される運びとなった。やれやれ。



「というわけでみくる、覚悟してもらうよ」

 鶴屋さんは手のひらを正面に向けたまま肩より少し高く持ち上げて、
指を第二関節で折り曲げ何かを握ったり離したりする仕草をしながら、
片足のみで体を支えているために
ふらふらと立ち位置の定まらない戦うウエイトレスにじりじりと近づいていく。
ちなみに今回も朝比奈さんの髪型はツインテールだ。
ポニーテール案も出たのだが、
何を思ったのかハルヒが即座に却下したため前作と同じものが選ばれた。

 それにしても俺であれ古泉であれ、
万が一にも鶴屋さんと同じことをやったら全校生徒から命を狙われそうだ。
セクハラどころか変態そのものだぞ、これは。

 さて、件の女格闘家はすっかりなりきっているせいか、
画面越しでも感じられるくらい放つプレッシャーは強烈で、

「観念するんだね。あたしのテクで足腰が立たなくしてやるさっ」
「はひぃ」

 迫る敵役を見て、朝比奈さんは何もされないうちから腰砕けになっていた。
演技じゃなくて本当に怯えてしまっている。なんともお気の毒な話だが、
ここはひとつ全国津々浦々に存在する朝比奈みくるファンのためにがんばって頂きたい。

「それ以上後ろに下がれないにょろよ」

 ついに朝比奈さんは公園の隅にあるジャングルジムまで追い詰められていた。
と言ってもじりじり下がっていった結果そうなっただけで緊迫感はない。悲壮感は少しあるが。

「どうしたんだい? そんなことじゃ地球の平和は守れないっさ!」

 逃げ腰のウエイトレスを近づくだけで追い詰めながら、鶴屋さんは熱っぽく叫ぶ。
その一方で赤ん坊がするように手のひらをにぎにぎするのを止めない辺りに、
なんともいえないシュールさを感じてしまうのは俺だけなのだろうか。

 そして、とうとう朝比奈さんは謎の女性武道家に捕らわれてしまった。
しかし、今回の鶴屋さんはどういう役どころなのかまったくもって不明である。
前作では長門が扮する魔女っ子に操られていただけのゲスト的な登場だったのだが、
いきなり古泉を狙ってみたり、それを阻もうとするユキと戦ってみたり、
タイトルからは名前が外れているとはいえ、
近作も実質的には主人公を務める朝比奈さんまで襲っているのだから、
一気にメインどころへと昇格しているのは間違いないのだが。

 鶴屋さんは残りの三メートル程を一気に詰めると、

「隙あり!」
「ひゃあぁぁぁぁ」

 完全に怯えきった表情で思いきりのけぞろうとする親友の後頭部をさりげなく保護しつつ、
するりとジャングルジムと朝比奈さんの間に身を滑り込ませた。

「さあみくる、覚悟しなっ」
「あひぃぃぃぃぃ」

 絹を裂くような悲鳴が公園内にこだまする。
何も知らない一般人が近くを通ったら、どう思うだろうね。考えたくもないが。

 朝比奈さんの背後に立つ鶴屋さんは脇の下から両腕を通して、
抱き寄せるような形で乙女の双丘を下側からつかんで目を見開いた。

「へえ、すっごいボリュームだね。いやあ、役得役得」

 心から楽しそうな声できらきらと目を輝かせながら揉む姿はハルヒそっくりだ。
まあ、こういう部分の感性が似ているからこそ意気投合したんだろう。

「ふぅん、はん、だめぇ」

 朝比奈さんは鼻にかかった声音を上げつつ身をよじろうとするも、
体位を制御されて自由に動くことができずにいる。
先輩に向かってこんな表現をするのもどうかと思うのだが、これは相当エロい。

 鶴屋さんはすっかりその気になっていて、
揉むだけでは飽き足らず耳たぶを甘噛みし、さらには頬に唇を這わせているのだ。

 しかし、いいのだろうか。いや、いいわけがない。あまりに刺激的すぎる内容だ。
こんなものを校内で流したら、即刻文芸部はお取り潰しの憂き目に合うことは請け合いで、
SOS団は活動拠点を失う羽目になるぞ。

「そんな、だめですぅ」

 誰も止めるものがないばかりか、

「いいわよ鶴ちゃん! そう、そこ! 攻め手を緩めちゃ駄目!」

 メガホンを振り回してハルヒがはやし立てるものだから、
鶴屋さんの動きはますます艶かしいものになっていく。

 この危険すぎるデータを残しておけば我らが団長殿は活用しようとするに決まっている。
平和裏にことを収めようとするならば、
カメラを止めればいいと突っ込む方がいらっしゃるかもしれない。

 だが、逆にたずねさせてもらいたい。
同じ状況下で止めておけ、と誰もが簡単に言えるのだろうか。
我々は健全なる男子高校生であり、そういう類の興味は尽きないわけで、
まあ、要するにとても放映できないような内容になっちまった、と言うことだ。



 朝比奈さんと鶴屋さんが織り成す百合色世界をしっかりと録画した俺は、
超監督にたった今撮影したばかりのデータは本番に使えない旨を進言した。

「はぁ? 今のシーンは使えない?」
「当たり前だ」

 思ったとおりの反応だが、ここは引くわけにはいかない。
何しろこれはSOS団存続に係る問題であり、
何より北高が誇るトップアイドルの名誉を粉砕して余りあるものだ。
俺は是が非でもハルヒを説得せねばならん。

「ハルヒ、念のために聞いておくがこいつを発表するのはどこなのかわかってるのか」
「決まってるわ。学園祭よ」

 あっさりと言いきりやがった。
お前はその結果何が起こるか、考えないのか。

「そんなの客を集めたもの勝ちじゃない。聞いた話、昔NHKでやっていたアニメで、
有名かつ文学的な作品を題材にしたストーリーをうたいながら、
実際には冒険活劇ラブコメディを製作したツワモノだっているのよ。
少々ピンクなくらい、なんてことないわ」

 正直、一理あると思ってしまった。
しかし俺はうなずくわけにはいかんのだ。

「生徒たちにはよくても教師の耳に入ったらどうするんだ。
人の口に戸が立たないことはお前もよく知ってるだろう」
「ふん、口ばかりうるさい連中は放っておけばいいのよ。
むしろあたしに言わせてみれば、これしきの内容でいちいち目くじら立てる方が問題だわ。
みくるちゃんは敵に組み付かれて攻撃されているの。わかる?
そこに性的な要素なんて皆無なのよ。うがった見方だわ」

 ある意味寒心するぜ。よくもまあ、こんな言い訳を思いつくものだ。

「それにこういうシーンがあれば鯉が滝登りしてナイアガラすら飛び越える大入りよ。
去年を大いに上回る興行成績を残せるのは間違いないわね。
同時に、SOS団の知名度も爆発的に広がるわ」

 スタッフロールには生徒会対策に文芸部の名前を出すんじゃないのか。

「そんなの、いくらでもやりようがあるわよ。
別にSOS団の名前は放送コードに引っかかるわけじゃないんだから」

 こいつと話をしていると、俺の中の常識がおかしいんじゃないかと思えてくる。
言ってることはもっともなのだが、やっぱりマズいだろう。それとも、俺が硬すぎるのか?

 その時、あのぉ、という控え目な声を聞いて全員の視線が戦うウエイトレスへと向けられる。

「どうしたのみくるちゃん」
「一応、みんなの意見も聞いてみてはどうでしょう」

 それまで黙って俺たちのやり取りを聞いていた朝比奈さんは実に建設的な意見を口にした。
いくら正しかろうが半数に満たなければ黙殺されるという欠点はあるものの、
多数決というのは民主主義的なやり方だ。

「有希はどう」
「問題ない。R15にもかからない程度」

 長門は迷うことなく賛成に一票を投じ、

「古泉くんは」
「別に構わないのではないでしょうか。
あくまでも戦闘シーンであると言い張れば、そうではないことを立証するのは難しいですし」

 古泉がハルヒに反対意見を口にするはずはなく、

「まあ、どう転んでもあたしは十分楽しめたから満足してるよ」

 鶴屋さんは危険票、そして俺の否決で結果は賛成三反対一無効票一となった。

 ところで、朝比奈さんの意思が一切考慮されていない点を指摘しておくべきなのかね、俺は。



「実は今回も池のシーンを考えているのよね」
「ひっ」

 声を詰まらせて絶句する朝比奈さんに一瞥をくれることなく、
ハルヒは腕を組んだままぐるりと俺たちを見回した。

「放り込まれるだけだと去年と同じね。ここはひとつ、泳ぎきってもらうのはどうかしら」
「阿呆かお前は。池に入る者の身になってみろ」

 幸い朝比奈さんは風邪を引いたりはしなかったものの、
鶴屋さんの家で風呂を借りることになったのを忘れたとは言わせん。

「うるっさいわね。だったら何か代案を立てなさい」

 無理難題を言ってくれる。代案がほいほいと思いついたら苦労はないぞ。

 ともかく、哀れなずぶ濡れウエイトレスを生み出さないためにも頭をひねる必要がある。
それなりに度露出度が高く、それでいて放送しても問題のない内容と言えばなんだろう。

「水着姿、とか?」
「ふうん」

 ハルヒは数秒間俺を見つめた。

「なんだよ」
「キョンにしては名案ね。じゃあ、次の土日を使ってどこかのプールで撮影しましょう」

 一応及第点だったらしい。やれやれだぜ。

 と、いきなり顔を寄せてきた古泉が耳元でささやく。
「図らず も濡れ場(・・・)になったわけですね」

 口に出さんでもいい、そんなことは。
あとな、毎度のことながら近づきすぎだ。



『それじゃあ本日はこれまで!』

 という超監督の言葉に従い、俺たちは三々五々帰路に着いた。
途中、一人別れ二人別れてハルヒとふたり、特に話をするでもなく道を歩く。

 去年に比べれば多少はストーリーが練られているのか。
しかし台本がないからな。すべてその場の思いつきという可能性も拭いきれん。

「製作は順調ね。この調子だと、すぐにライブの準備も始められそうだわ」

 そういえば去年、学園祭が終わってそんなことを言ってたな。

「映画だけじゃなくそっちもやるのかよ」
「当たり前でしょ。いい? 本番までになんでもいいから一つくらいは楽器をマスターしなさい」

 すでに演奏が可能なお前と長門はいいとして、残る三人はどうするんだ。
第一すぐに覚えられるものなのか、楽器って。

 そこで、俺は小さく眉を寄せた。
通りの向こうから猛スピードでバイクが走ってきている。
妙に違和感を覚えると思ったらそれもそのはず、ほとんど音を出していないのだ。

「おいハルヒ」
「何よ」

 注意を促そうとするも、この女はまったく気づいていない。
普段はどうしようもなく鋭いくせに、こっちを見てたらよけられんだろうが。

 そうしているうちに疾走する大型二輪車はみるみる迫り、

「っ」

 バカ野郎、

「危ないっつってんだ!」

 俺は叫ぶと同時、とにかくハルヒの体を抱き寄せていた。



「なんだ今のは」

 タイミング的にはまさしく間一髪で、
遠ざかるライダーの背を眺めながら安堵と共に嫌な汗が背中にじわりと沸く。
比喩じゃなく、真面目にミラーが手の甲をかすめたぞ。

 もし俺が迷っていたら、今頃はどうなっていたことか。

「……びっくりした」

 腕の中で目を丸くしてつぶやくハルヒに、俺は怒声を叩きつけることができなかった。
そして、常時命令口調の女はゆっくりと視線をこちらに向けて数回瞬きをした後、
何かを言いかけて中断すると、そっとうつむく。

「あ、ありがと。キョン」
「いや」

 無事で何よりだ。
そう言いたかったが、言葉が続かない。

「……っ」

 と、抱き合ったままでいることに気づいて、俺はあわててハルヒを解放した。
まだ柔らかな感触が残る手のひらを意識してしまったのは、まあ不可抗力だ。

「か、帰りましょっか」
「ああ」

 何となく気恥ずかしさを伴う沈黙を挟みながら、
俺たちは少し先の交差点でまた明日、と別れるのだった。




V「愛の逃避行」へ

ver.1.00 09/05/30
ver.1.53 09/05/31

〜濡れ場…?! 舞台裏〜

「キョンくん、電話〜」

 その日の夜、風呂を上がって一人椅子の上でまったりと夜風に吹かれていた俺は、
元気よく部屋に飛び込んできた小学生の血縁者に電話の子機を突きつけられていた。

「ああ、サンキュ」
「こんなのお安い御用だよ〜」

 妹はすぐに部屋を出るかと思いきやいったん足を止めて、
キラリと星でも飛びそうな中指と薬指のみを握りしめた拳を顔の横でちらつかせるのを見て、
小学校ではこういう仕草が流行っているのか、とぼんやり考える。

 そういや誰からかかってきたのか聞いてなかったが、まあいい。出れば分かる。

 胸中独りごちて受話ボタンを押し、
もしもし、と当たり障りのない「どちらさまですか」を投げかけると、
聞き慣れた男の声が返ってきた。

『どうもこんばんは。古泉です』
「お前か」
『その反応は、電話があると予想していたようですね』
「まあな」

 最初から電話があると思っていたので特に驚きはない。
これが無口な宇宙人からのものだったとしても、やっぱりと思ったはずだ。
朝比奈さんからのデートの誘いだったら心底度肝を抜かれただろうがな。

「星の件か? それとも」
『それとも、の方ですよ。二人ともご無事で何よりです』

 相変わらず回りくどい言い方をするヤツだ。

「なんだ、もう知っていたのか」
『ええ。機関ではすでに対策のための部署が設置されていますから』

 何の話かといえば、家に帰りつく直前いきなり襲ってきたバイクについてだった。
どういう仕組みになっているのかは知らんがほとんど音を出さずに高速で接近してきたあれは
不自然極まりなく、たまたま起きた事件とは到底考えられない。
第一、ただのひき逃げ未遂ならわざわざこいつが電話をかけて来ることはないし、
そもそも知ることすらなかっただろうからな。

「あれは何者だ? いったい何が目的なんだ」
『わかりません。涼宮さんを傷つけることで実行者たちが何を得ることができるのか、
その正体も含めて皆目検討がついていないんです』

 本当に人気者だな、ハルヒ。まさか、見ず知らずのヤツにまで狙われるとは。
それは宇宙人なのか、未来人なのか、はたまた超能力者なのか。
電話越しに肩をすくめる古泉の姿が目に浮かぶようだぜ。

『もう一つ、これは朗報なんですが、
姿を見せないようにしながら、森さんや新川さんたちが護衛してくれるそうですよ』
「今更な質問のような気もするが、あの人たちは強いのか」
『ええ、僕と違って超能力に頼る必要がないくらいは』
「そうかい」

 ひとまずは安心、と言ったところか。
鶴屋さんクラスか、あるいはそれ以上なのか。
どちらにしても、森さんたちがただ者じゃないのは間違いないようだ。

「あとは長門にも話をしておくか。お前さんみたくすでに情報をつかんでるかもしれんが」
『そうですね。そちらはあなたにお任せしておけばいいんでしょうか』
「ああ。やっておく」

 これまで何度も頼りにしてきたおかげで、あいつの家の電話番号はすっかり暗記しちまった。

『では、よろしくお願いします』

 では、という声に遅れること二、三秒、通話状態が切れたのを確認して切、のボタンを押す。
それにしても、この分だとしばらくは気を抜けんな。
森さんたちを信じていないわけじゃないが、隠れながらでは対応しきれない可能性もある。
帰り道はハルヒを家まで送ってやるべきか。
横についていれば多少の時間稼ぎくらいはできるはずだ。

 問題があるとすればどうやってそれをあいつに伝えるか、なのだが。
……今更どの面下げて言えばいいんのかね、まったく。



 一ヶ月ぶりの続きです。相変わらずハルヒは暴走しています。
古泉はいつもどおり顔が近く、鶴屋さんは自然体です。
今回は出番の少なかった長門ですが、次は色々してもらう予定です。
みくるは、そうですね。次回は水着で場を華やげてもらう方向で。

 続きはもう少し更新までの間隔を狭めたいと思います。

 それでは、再び皆さまとお会いできることを祈りながら。



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