前編

「何かあったのか」

 上条から気遣わしげなまなざしを向けられて、美琴は反射的にいらだち任せに答えようとする自分に急制動をかけた。
自身を捕らえる瞳に、まったき真摯な思いが込められているのが見て取れたからだ。
もしここで彼がからかうためにそう言ったのだとすれば、即座に、躊躇なく高圧の電撃を浴びせたことだろう。

 しかし、気遣われている事はありがたく思う一方で、ストレートに事情を説明する気にはなれなかった。

 学園第三位にして超電磁砲の使い手たる、常盤台のエース。
たゆまぬ努力の結果、一介の能力者(レベル1)から超能力者(レベル5)に到達した唯一の生徒。
明るく気さくで相手を問わず分け隔てなく接する公平さを持ち、見ず知らずの他人であっても迷いなく手を差し伸べる、無類のお節介焼きでもある彼女は、相手の性別を問わず、「実は近頃噂になってる下着泥棒に入られちゃったみたいでね。あっはっは」などと、明け透けな物言いができる少女ではない。

 より正確には特定の人物を前にすると、いつもの調子でいられなくなってしまう。
自覚はある。だが、自覚はあってもどうしてこうなってしまうのか、当の本人さえもわかっていない。
過去に経験のない、しかし決して気のせいというひと言では片付けられないこの気持ちは、時折意識の深いところからひょっこりと顔を出して御坂美琴を落ち着かなくさせるのだ。

「別に、何でもないわよ」

 説明に困った電撃使いの少女はわずかに視線を泳がせると、ぷいとそっぽを向いた。
直後に柳の眉が微かに寄せられたのは、己のつっけんどんな返事と態度を悔いてのことである。
それはチクリとした痛みとなって胸の奥でうずき、歯がゆく、もどかしくもあった。
しかし、一度口に出したものは引っ込められない。
どう次の言葉を切り出したものかという思いが、余計に彼女をいら立たせる。

 もっとも、そんな台詞で引き下がるような上条当麻ではなかった。
何しろ彼は、美琴以上にお人よしなのだ。

「いや、何でもないヤツがいきなり叫んだりしないだろ」
「だから、何でもないって言ってるでしょ」

 気遣ってくれているのがわかる手前、さすがに怒鳴りつけるわけにもいかず、美琴はそう言って、うー、と一声うなった。
バチッ、と前髪から火花が散ったのは、ままならない自身への苛立ちが現れたものである。

 黒髪の少年が反射的にすわ雷撃が叩き込まれるのかと身をすくめてしまったのは、いわゆる条件反射であったが数秒経っても彼女が顔を背けたままでいるのを見て肩の力を抜いた。

「だったらいいんだけどさ」

 美琴はどこか気落ちしているようには見えるものの、特別、取り乱している風ではない。
何かがあったのは間違いないにしても、いつかのような大事件ではないのだろう。
幻想殺しの少年は胸中考えをまとめると小さくかぶりを振って、飲み物でも買おうといつもの自動販売機に足を向けた。
ポケットから財布を取り出し小銭を確認しようとしたところで、ざっ、と土を踏む音が聞こえてかたわらへと視線を移す。

「……!」

 そこにはほんの少し唇を尖らせた常盤台のエースがいた。
少女の意図を量りかねてぎょっとしたのか目を瞬かせる少年に、美琴は仏頂面のまま次の質問を放つ。

「ねえ、アンタ暇してる?」
「ああ、特に用事はないぞ」

 上条はあっさりとうなずいた。最初は雑誌でも立ち読みしようと家を出たものの、あれこれとしているうちにその気も失せて予定は宙に浮いている。

「だったら、ちょっと付き合ってくれる? 憂さ晴らしに」
「憂さ晴らし、ってお前何をするつもり……おい、御坂」
「いいから着いてきて」

 すたすたと歩いていく美琴を、少年はあわてて追った。
返事の是非に関係なくどこかへ向かうつもりらしく、少女の足取りに迷いはない。

 すでに下着は奪われてしまったのだ。今さら足掻いたところでどうしようもない。
こうした切り替えの早さもまた、彼女の美点であった。



「初春。尻尾はつかめそうですの?」
「もちろんそのつもりですけど、まだなんとも言えません」

 初春は尋常ならざるスピードでキーボードに指を走らせていた。
作業内容は学園都市内に設置されている膨大な数の監視カメラ及び熱感知センサーを使った不審者の探索で、つい先ほど事件があった常盤台の女子寮を起点とし、しらみつぶしに何らかの異常を見つけ出そうとしているのだ。

 はっきり言って非効率極まりない力技である上に、犯人が熱を遮断する術を持っていた場合は体温を感知できず徒労に終わるのだが、姿が見えない相手を捕らえる方法は他になく、かつ、居場所が絞り込みやすい今しかできない捜索方法だった。

 ちなみに花飾りの少女は窃盗犯確保のために行われていた会議が終わった後、下宿先に戻っていたのだが、部屋でくつろいでいたところへいきなり空間移動(テレポート)してきた白井が現れ、転移の合間に説明を受けながら第177支部まで連れてこられて今に至る。

「こんなことになると分かっていれば、もっと早く固法先輩と上層部に掛け合ってあらゆる機器を町中に配備していましたのに」

 言ってもせん無きことと知りながら、ツインテールの少女はいら立たしさを隠そうともせず唇をぐっと噛み締める。
申請したのは会議の後、つい一、二時間前の話であり、今日中に設置が間に合うはずがなかった。

「それがあれば、もっと楽に見つけられたかもしれません。でも、こういう地味なローラー作戦って嫌いじゃないですよ」

 こうした受け答えをしながらも初春の手は止まらない。
これまでの対応については悔やまれる部分がないわけではなかったが、反省は後からでもできる。
優先すべきは犯人の現在位置を特定することだった。

「さすがに、寮の近くにはいないようですね」

 五百メートル刻みで捜索の輪を広げること十回、現場の周辺には何の痕跡もない。
だがこれしきのことでは花飾りの少女の忍耐力は毛の先ほども磨耗することはなかった。
これは、ゲームを完成させる際に行うデバッグのようなもので、どこにあるのかわからない綻びを見つけ出す作業を初春は何時間もぶっ通しで行うことができる。
学園都市の生徒でなければ、どこかの国で諜報員を務めていたとしてもおかしくない、プログラミング能力と耐久力を兼ね備えた一流の者であるからこそ、白井黒子は全面的に信頼してすべてを任せられるのだ。

「証拠品を持って逃げているのですから当然ですわね。犯人は現場に戻る、といった格言はこの場合、無視すべきかと」
「私もそう思います。念のため、調べてはいますけどね」

 だからと言って、ツインテールの少女の焦れる思いがなくなるわけではない。
自分の身に降りかかった事件であるならともかく、今回は敬愛するお姉様、御坂美琴が被害者なのである。
一刻も早く取り戻さなければ由々しき事態になってもおかしくはなかった。

「わたくしの能力ではどうすることもできませんわ。ですから初春が頼りですの」
「はい」
「ですが、こうしている間にも!」

 たとえば、である。

「ああ、可及的速やかに犯人の位置を割り出さねばお姉様の下着が! お姉さまの、玉のお肌に触れた布地がいまいましいこそ泥の手で汚されてしまいますの! 陵辱! そう、これは姦通にも等しい悪魔の所業ですわ! きぃぃぃぃぃぃ! 万が一、億が一でもそのようなことがあれば! 猿にも劣るド畜生めを、コンクリ詰めにして海の底コース! いえ、のこぎり引きでも生ぬるいですわね。万死を飛び越えて兆死に値しますわ!」
「落ち着いてください白井さん」

 友の喚き散らす声を聞き流しながら、初春は持てる能力をフル稼働し続ける。
彼女とて下着ばかりを盗む犯人を、女の敵をそう易々と逃すわけにはいかないと思っている。
それも、よく知った人が被害にあっているのだ。一層力が入るというものである。



「あの、御坂さん」

 三歩下がって師の影を踏まずの教えに従う弟子の如く、無言で御坂に付き従っていた上条が意を決して前を歩く常盤台のエースに声をかけると、彼女はこちらを見やって微かに驚きの表情を浮かべた。

「へえ、ちゃんと着いて来てたんだ」
「いや、着いて来いと言ったのはそっちだったと思うのは上条さんだけでせうか」

 まったくもって理不尽極まりない発言に、黒髪の少年は言動に疲労感をにじませつつ返答する。
道中、彼女が火花を散らしていたため、やぶ蛇にならないよう黙っていたのだが、どうやら杞憂だったようだ。

 立ち止まり、半身で振り向いた美琴は屈託のない笑みをみせている。

「で、どこに向かってるんだ? そろそろ教えてくれてもいいだろ」
「言ってなかったっけ。ぱーっと甘い物でも食べて、ストレスを解消しようかなと思って」
「そっか」

 白井が聞けば「お姉様! そんな事をすれば取り戻すのに何日かかると思っていますの!? 黒子は絶対反対ですの! お姉様の美しいラインが崩れてしまいますの!」などと騒ぎ立てる事は請け合いであるが、女の子の事情に疎い上条としては、そういうものなのかと相槌を打つばかりだ。

「取り敢えず、特大パフェかしら。大盛りにするのもありだし、他のメニューを攻めるのも手よね」
「お前、どれだけ食うつもりなんだよ」

 恋人同士でない二人組が一緒に店へ入れば勘定は半々、というがおそらく一般的である。
問題は、今から向かうところが常盤台のお嬢様が行きつけの場所である点だ。
胸を張って言うことではないが、彼は良くも悪くも平均的な家庭で育っており、仕送りの金額は生活費を差し引けばほとんど残らないレベルだった。
ケチケチするつもりはないが、下手をすれば当面の食事が塩と水だけになってしまう恐れがある。

 しかし、戦慄する上条にほほえみかけたのは死神ではなく天使だった。

「ああ、心配しないで。私が誘ったんだから、おごらせてもらうわよ」
「いや、待ってくれ。なんか、いつもおごってもらってばかりな気がするんだが」
「そう? いらない、って言うならそれでもいいけど」

 黒髪の少年は毅然とした態度で取り出した財布の中身をチェックするや、ほとんど首が直角になるまでうな垂れる。

「どうしたのよ」
「すまん。本日の予算じゃ自販機の缶ジュースが限度だ」
「そっか。じゃあ、決まりね」

 罵られることを覚悟していた上条は、美琴がつぶやいたきり上機嫌に鼻歌を歌い始めたのを見て、しばらくの間不思議そうな顔をしていたが、ふと我に返って手を打ち合わせた。
いくら金持ちだからと言って、おごらせてばかりではさすがに気が引ける。
礼として受け取るならまだしも、今回は何もしていないのだ。

「その代わりと言っちゃあなんだけどさ」

 きょとんとする常盤台のエースに、黒髪の少年はニヤリと笑った。

「今回は世話になるけど、次は俺のおごりな」
「え?」

 雷に打たれたように動きを止めた美琴は、無意識にやや上目遣いで少年を見やる。

「……いいの? っていうか、今日は私の勝手で誘っただけなんだから気にしなくていいわよ」
「男に二言はねえよ。まあ、できれば店は選んでもらいたいところだが、なに、人間は少々食わなくたって死なないようにできてるからな。はは」
「バカね、そこまで無理する必要ないじゃない」

 一体何をおごってくれるつもりなんだか、と少女は小さく苦笑すると、頬をほんのりと桜色に頬を染めながらわずかにうつむいた。

「でも、嬉しい。ありがとう」
「いや、礼を言われるほどのことじゃ」

 予想外の反応に、上条も気恥ずかしさを覚えて後ろ頭をかきつつ答える。
両者の間に付き合い始めたばかりの恋人同士を思わせる初々しい空気が流れる中、学園第三位の少女は熱くなった顔を隠すように身をよじり、その拍子に宙を撫でたはずの手のひらが妙な弾力に押し戻されて、目を瞬かせた。

「へ……?」

 美琴は思わず辺りを見回したが、手の届く範囲に人はいない。
更に言えば、ふくよかな双丘を持つ者など見渡す限り存在しなかった。

(どういうこと?)

 何もないはずの空間に女性の胸部としか考えられない柔らかな膨らみがあった、
一拍遅れて脳がその意味を吟味しかけたところに、期せずしてかわいらしい着信メロディーが鳴り響く。

「……私のだ」
「みたいだな」

 上条は上向けた手のひらを見せつけるように差し出す仕草でもって、電話に出ることを促してきた。
美琴は素直に従い、取り出した携帯電話の受話ボタンを押す。

「はい」
「お姉様。例の窃盗犯の居場所が特定できましたの」

 息せき切って語を継ぐ白井の言に、電撃使いの少女は我知らず息を飲んだ。

「いいですか、よく聞いてくださいまし」

 しかし驚きは一瞬のこと、一言一句逃すまいと美琴は意識を耳のみに注ぐ。

「犯人はつい今しがたセブンスミストの近くにあるクレープ屋の側を通ったはずですわ。もし近くにいるのでしたら気をつけてくださいませ……って、もしもし? お姉様?」
「わかった。感謝するわ、黒子」

 なんという偶然だろうか。まさか、こんな形で犯人と鉢合わせる事になろうとは。
姿が見えない者が、幾人も町をうろついているわけがない。

 常盤台のエースはのんびりと空を眺めていた上条の腕をつかむと、不敵な笑みを浮かべた。

「いい? 今からこの一帯で騒ぎが起こるから、アンタは不審者がいないかよく見てて頂戴」
「は? どういうことだよ」
「アンタまでしびれるんじゃないわよ」
「おい、御坂」

 説明もそこそこに、美琴の前髪がバチッと激しい火花を散らす。
黒髪の少年は反射的に右腕を前方にかざし、その一点を除く周りに超低電圧の電流が放射された。

「危ねえな、おい」

 見れば原因不明のしびれに襲われた生徒たちが、そこかしこで驚きの声を上げている。

「ねえ、何かおかしなこと、なかった?」
「いや、そう言われても」
「今度は見ててよ」

 ほとんど会話になってねえ、と悲鳴に似たうめきを漏らしつつも、上条は言われるままに辺りをつぶさに見て回った。
特におかしなところはないぞ、と口にしかけた次の瞬間、通りの向こうで中年の男性がいきなり前のめりになる。

「なんだ、今のは。あのオッサン、勝手に転んだぞ」
「ビンゴ! あの、逃げていくヤツを捕まえるわよ!」

 美琴の目的はただ一つ、この場にいる全員の足を止める事だった。
その中で動き回れば、たとえ不可視であったとしても何らかのボロを出すかもしれないと考えたのである。

「わかった」

 上条は事情を把握しないまま、協力を決断した。
彼女が何の理由もなくこのような行動に及ぶはずがないと、知っているからだ。

「とにかくあいつを追えばいいんだな」
「ええ、お願い」

 下手な考え休むに似たり、と言う。
路地裏で幾度となく複数の相手と拳を交えてきた経験が活きたのか、少年は立ち尽くす人たちの合間をかなりのスピードで駆け抜けて、そこにいると思しき何者かに右手で触れることに成功した。

 だが、変化はない。その者は、変わらず見えないままだった。
その虚を衝かれ、腕が振り払われる。

「ちょっと、どうして追いかけるのをやめるわけ!?」

 足を止めてしまった上条を見て声を荒げる少女だったが、

「能力者じゃねえ」
「は? って、いきなり走り出さないでよ!」

 ぽつりとつぶやいて再び駆け出した彼をあわてて追う。
電撃使いの少女が追いつくと、黒髪の少年は前を見据えたまま、こう続けた。

「御坂、今のヤツは能力者じゃないぞ」
「何言ってんのよ、アンタ。姿を消せるのに、学園都市の人間じゃないとでも?」
「そうだ」

 戸惑う少女に、

「この手で触れたのに、あいつの能力は解除されなかった」

 上条ははっきりとそう言ったのである。



とある下着の強奪事件』前編へ

ver.1.00 10/1/20
ver.1.89 13/8/10

〜とある下着の盗難事件・舞台裏〜

「『うーいっはるー!』

 底抜けに明るい声と軽やかなステップを伴った少女の一撃は、寒い冬の終わりと春の訪れをひと時に告げる一陣の風を思わせるものだった。
しかしながら、今は猛暑の真っ盛りであるのもさることながら、スカートめくりという行為には春の一字を含んだ呼び名はあまりにも似つかわしくない。

『きゃぁ!?』

 木陰で涼みながらぼんやりと空を見上げていた初春飾利は遅れて悲鳴を上げてから、ひらひらと宙を舞う自身のスカートをあわてて押さえ込むと、彼女にしては珍しい事に勢いよく振り返った。
そこには満面の笑顔をみせる佐天類子の姿があり、あっけらかんとこんなことを言う。

『いやあ、晴れ渡る空に負けない綺麗な青と白のストライプとは、目が洗われるとはこのことだね』
『洗われるようだね、じゃありませんよ! しみじみとおかしなことを言わないでください!』
『えー? 私は率直な感想を述べてるだけなんだけどなあ』
『もう……!』
 風紀委員(ジャッジメント)の友が顔を真っ赤にしてぽかぽかと胸元に緩く握った拳を打ち付けてくるのを見ながら、佐天は意図的にそうしているのかいないのか、涼しい顔で小首を傾げるばかりだった。

 ややあって落ち着きを取り戻した初春はわずかに唇を尖らせたが、

『佐天さんはどうしていつも、こんなことをするんですか』

 親友が不意に真顔をみせるのを見て、目を瞬かせた。

『どうして? そんなの決まってるよ』

 いったい何を言うつもりなのか、佐天は重々しくうなずくと朗らかに宣言する。

『私、初春萌えなんだよね』
『え、佐天さん……?』

 我が身に何が起こったのか、色とりどりの花飾りを乗せた少女はにわかに理解しかねた。
一拍の後、抱きしめられたのだとわかった時には、甘い吐息が耳元へと吹きかけられていた。

『初春、覚悟してもらうよ』
『佐天さん、ちょっと、こんな』

 こんなことを、と続けようとしたのか、あるいはこんなところで、と言いかけたのか、自身でもわからないまま初春は抗うことができなかった。そして……」

 常盤台中学のお嬢様ばかりが住まう女子寮の一室で、風紀委員の腕章をつけたツインテールの少女はルームメイトであり先輩でもある少女に、そんな風に二人がきゃっきゃうふふする夢を見ましたの、と続けた。

「そうして盛り上がった二人はやがて一心に見つめあい、手を取り当って……って、どうかしましたかお姉様。いきなり後ずさりを始めるなんて」
「いや、わかっていたつもりだったんだけど、アンタって寝てる時まで相当アレなんだなと思って」

 きょとんとした表情の白井に、美琴はげんなりとした顔で返事をする。
実は、と切り出された話がまさかこのような内容であると、誰が想像するだろう。

「まあ、黒子が変態なのは今に始まったことじゃないけどね」
「へ、変態……!」

 なじられて悦ぶ者は確かに存在する。

「うふふふふ、お姉様がそういうプレイをお望みでしたとは露と知らず、失礼いたしましたわ。わたくしにその趣味はありませんが、お望みとあらば一肌でも二肌でも脱ぎますわ。この身はお姉様のもの。ささ、どうぞお好きになさってくださいまし」
「離れなさい、こら、離せっつーの!」
「いいえ、離しませんわ。お姉様が目覚めるかどうかの瀬戸際、離れるわけには参りませんの……!」
「目を覚ますのはアンタよ、バカ黒子!」

 バチッと常盤台のエースの前髪が火花を散らせたかと思うと、悲鳴を上げる暇もあらばこそ、ツインテールの少女は電撃に貫かれて無言で床に倒れ伏し、朝日が昇るまでの間、不本意な睡眠を強いられたのだった。



 というわけで下着泥棒の話、後編でございます。
そういえば当麻の能力って、本編ではまだ美琴に知られていないんですよね。
あらゆる攻撃を無効にする力は、右手のみに限られている、という話です。
残る解決編は、近いうちにお届けしたいと思います。

 それでは、再び皆さまとお会いできることを祈りながら。



とある魔術の禁書目録小説お品書き
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