中編

「え?」

 佐天涙子が目を白黒させたのも無理はない。
つい今しがた、鼻先に存在する不審な何かをつかもうと反射的に腕を伸ばしたのだが、その結果、いきなり降って沸いたように大量の下着が散乱し、床に倒れる何者かの姿を暴き出す事になろうとは、夢にも思わなかったからだ。
多くの人間は、彼女と同じ反応をみせたに違いない。しかし。

「神妙にしてください!」
 全裸で浴室から飛び出した風紀委員(ジャッジメント)の少女は、いち早く意識の切り替えに成功していた。
より正確には、異変に体が反応したと言うべきか。
有事には考えるより先に動かなければならない。その習性が彼女を捕縛という行動に向かわせたのだ。

「風紀委員です!」

 初春は甘ったるい、しかし凛とした響きを伴う声で宣言するや、脳震盪でも起こしているのか倒れたまま動かない窃盗犯と思しき者を確保にかかる。

「ん、よいしょ、っと」

 風紀委員の少女は姿が見えないままの犯人からの返事を待たず、浴室の扉脇に置かれていた藤籠から取り出したタオルを拘束具使って後ろ手に縛り上げた。
先ほどまでシャワーを浴びていたはずなのだが、まだ取り外す前だったのか頭髪を彩る幾つもの花々をわずかに揺らめかせる彼女の、なだらかな曲線を描く双丘を水滴が伝い、あるいはそのまま雫となって床へとこぼれ落ちる。

「初春、すごい」

 佐天は自身が思わず言葉を漏らした事にも気づかず、眼前で繰り広げられる光景に見入っていた。
この時彼女は水も滴るような、という単語を頭に思い浮かべたのだが、これは本当に雫が垂れているから美しいわけではなく、日本刀の刃文が持つ艶や滑らさが水面を連想させるところからきている語で、水が滴っているから綺麗だとする解釈は誤用である。

 それはさておき、濡れたままである事も一糸まとわぬ格好である事にも構わず、職務をまっとうしようとする初春の姿は確かにきらめいて見えた。
もっとも、今は目の前の事だけに集中している風紀委員の少女が、己が裸体であることを知覚した途端、真っ赤になってへたり込むことは想像に難くない。
「佐天さん、まずは警備員(アンチスキル)に連絡を! それと、白井さんたちにもお願いします!」
「うん、わかった」

 指示を受けた佐天は大急ぎでポケットから取り出した携帯電話を操作し始めた。
たった今取り押さえられた人物が、このところ町を騒がせていた連続下着窃盗犯なのだと、遅まきながら認識する。

(犯人を捕まえた事を伝えて、それから……)

 佐天涙子は気持ちがはやるあまり番号を打ち間違えつつも、受話ボタンを押した。言う。

「あ、もしもし。あの、例の下着ドロを捕まえました! 住所は……」

 少々上ずった友の声を聞きながら、初春はほんの少しだけ眉尻を下げた。
手を縛られた状態で、しかも横四方固めで押さえ込んでいるのだ。
あとは、警備員がやって来るのを待っていれば良い。

 ちなみに横四方固めとは柔道の固技の一つで、仰向けに寝た相手に覆いかぶさる形で、相手の側方から首の下に差し込んだ腕で首を固め、残った腕で足を抱えて、腰を低く落とした態勢で自身の体を押しつけるようにして動きを封じるものである。
小柄な少女の押さえつけでも、いったんこの態勢に入れば男でも簡単には抜け出せず、固められた側は伸し掛かられているため、徐々に体力を消耗していく。
つまり、時が経てば経つほど脱出はいっそう困難となる。

「あ、御坂さん? 犯人、捕まえました! そう、それです! 今、初春が動けなくしてます!」

 興奮気味に話す佐天をちらりと横目で確認して、風紀委員の少女は唇をぐっと引き結んだ。
有利な状況にあるとはいえ、油断するわけにはいかない。
何しろ、これまで手がかりらしい手がかりを残すことなく盗みを成功させてきた相手である。
どれだけ警戒しても、しすぎるという事はないだろう。

 一方で、気になる事があった。犯人は、どうやら女らしいのだ。
素材の不明なタイツのようにぴったりと体を覆うものを身につけているためわかりにくかったが、微かに胸元が膨らんでいるのだ。
姿は見えなくとも、さすがに密着した状態であればわかる。

(身長は私と同じくらいかな。でも、女の人がどうして下着なんて狙ったんだろう)

 生じた疑問を脳内で展開するうち、ツインテールの同僚を思い出して初春が苦笑したその時、それまで身じろぎ一つしなかった犯人が猛然と抵抗をし始めた。

「……!!」

 跳ね除けられそうになりながらも、風紀委員の少女は必死に押さえ込む。
単純な力比べならば、十中八九負けていただろう。
しかし、腕の自由が利かない上に全体重をかけられたまま、同じ体格の相手を押しのける程ではなかった。

 更に、

「初春!」

 と電話を放り出してやって来た佐天に足を押さえられては、犯人はどうすることもできない。
文字どおり手も足も出ない中、それでもなお二人がかりの拘束を解こうと暴れていたが、やがて体力が尽きたのか一切の抵抗を放棄した。

 だが、初春たちがほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、
Сука(スーカ)!」

 悪態の一つもつかずにはいられなかったとみえて、苦々しげな鋭い声が廊下に響く。
そして、それは下着泥棒の少女にとってまったく予期しなかった反応を生んだ。

「下着泥棒って、女の子だったんだ」
「そうなんですよ。私も正直、驚きました」

 目を丸くし、口をすぼめる友に初春はこっくりとうなずいた。
今の声からすると、彼女たちと同年代か、やや上くらいである。
ただ、聞き覚えのない言葉だった。どこの国のものであろうか。

「酢イカ?」
「そんな感じでしたね」
「急に食べたくなったのかな」
「そんなわけないじゃないですか。日本語じゃないんですよ」
「はは、そうだよね。どこかの地方の訛り、って訳でもなさそうだったし」

 首をひねる佐天の隣で、風紀委員の少女は笑いをこらえようとして失敗した。
肩を震わせて笑う友の姿を見た佐天が、それに続いてぶっと吹き出す。
二人は腕の力は緩めないように、こみ上げるおかしみにしばし、身を委ねた。

 その反応に、犯人はしばしの間沈黙していたが、程なく怒りに満ちた声が聞こえてくる。

「Чернобог……Oh,shit !」

 しかし、言葉が通じない初春たちは、頭の中で疑問符を浮かべるばかりだった。

「今度は何て言ったんだろう。最後は英語? 座れ?」
「そうじゃなくて、くそったれ、という意味のshitじゃないですか」
「ああ、sitじゃなくてshitね」

 合点がいった佐天は、ヒュウ、と口笛を吹く振りをする。

「チッ、こンな、ロくにコトバもシらないムチなガキどもにツカマるとはナ!」

 片言ながらもよく知った言語に、二人はぱっと表情を輝かせた。

「あ、日本語しゃべれるんだ」
「どう考えても外人さん、ですよね」

 再び黙り込んだ犯人をそっちのけで、初春たちはあれこれと推論を交わし始めた。
すべての発言に入り混じった侮蔑といら立ちの感情が空回りし続けることに空しさを覚えたのか、なんの突っ込みも反応もない。
もしかすると、諦めたのかもしれなかった。

「さっきのは英語じゃないよね。どこの国の言葉だろう」
「まったく聞いた事のない響きでしたね。欧米ではないのかも」

 よくよく考えれば、これは由々しき事態なのである。
学園都市のセキュリティーレベルは高く、外部の者が侵入するのは至難の業だ。
この街の科学技術は外と比べて二、三〇年は進んでいる。
何かしらの能力を持った者でなければ、内部の人間が手引きしたと考えるのが妥当だろう。

「そんな事よりも、さ」
「皆まで言わないでください、佐天さん」

 しかし、初春たちにとって重要なのはそこではない。

「そうなんだよね。どうしてこの人はパンツなんかを盗んで回ったんだろう」
「白井さんをよりたちの悪い感じにすると、こんな人になっちゃうかもしれませんよ」
「うわー、白井さんの手当たり次第バージョンかあ」

 それはひどい、とつぶやくや佐天は数秒間どこか遠くを見るような目をしていたが、不意にからりとした笑みをみせた。

「なるほどね。要するに変態なわけだ」
「ふざけるナ!」
「わ、っと」

 変態呼ばわりされたことが腹立たしかったのか猛烈な勢いで暴れ始めた犯人を、<二人は全力で押さえつける。

「クタばれビッチども! ワレワレにはスウコウなるモクテキがあル!」
「あー、わかった。わかったから暴れなさんなって無駄だから」

 と、風紀委員の少女は真顔になって親友に耳打ちした。

「事実を指摘されたから怒ったんでしょうか」
「たぶんね。きっと、家に帰ったらくんくんしちゃうんだよ」
「くんくん?」

 きょとんとした顔つきの友人に、佐天は大仰にかぶりを振ると、ひそひそと声を潜めて言う。

「だから、匂いをかぐの。もしかしたら、頭からかぶっちゃうのかもしれない」
「ええ!? それは変態すぎますよ佐天さん!」
「そう。だからバリアー。この変態性はきっと伝染する」
「!?」

 犯人の少女は二人に対して強い殺意を覚える一方で、冷静に己が置かれた状況を分析していた。
話に集中しすぎているせいだろう、わずかに押さえつける力が弱まっている。
これは千載一遇の機会だった。いったん離れることさえできれば、透明の彼女を発見する手立てはない。

(……ミンカンジンはなるベくキズつけるナとイわれているガ)

 ギリギリと奥歯を噛み締めながら、犯人の少女は一気に力を解放するべく呼吸を整える。
少なくとも、受けた侮辱の分はきっちりと返さなければならない。

 しかし、あと少しというところで彼女は意趣返しを断念せざるを得なくなった。
招かざる客が、来てしまったからだ。

「このまま逃していたら、初春もくんくんされちゃうところだったんだよ」
「で、でも匂いをかがれるのは私じゃなくて下着なんじゃ……と、ちょっと待ってください佐天さん」

 初春の表情に緊張の色を見て取った佐天は、口を閉じた。
耳を澄ますと、室外からこの部屋へと駆け寄ってくる複数の足音が聞こえてくる。

「全員、じっとするじゃん」

 そんな台詞と共に開いた扉から現れたのは、銃を手にした複数の警備員だった。

「よくやった、あんたたち。お手柄じゃん」

 まっ先に部屋へ飛び込んできた緑のジャージに身を包んだ長身の女性、黄泉川愛穂は一目で状況を把握するや、口の端をぐっと持ち上げて笑う。

「いえ。たまたまです」

 はにかむ風紀委員の少女に、警備員の女性は力強くうなずいてからしみじみとつぶやいた。

「まあ、色々と偶然が重なったのがわかる格好ではあるな。ほらほら、何をしている。男たちは外で待機じゃん!」
「え……って、あ……」

 初春の悲鳴は遠く、数区画先のマンションにまで届いたという。
それでも押さえ込みを解かなかった辺りは、見上げた風紀委員魂と言ったところか。



「お手柄でしたわね初春。連続窃盗犯の捕物劇、わたくしも見たかったですわ」
「本当。すごいじゃない、初春さん」

 警備員に身柄の引渡しを終えた後、佐天が住むアパートへとやって来た白井と美琴は、事の次第を聞いて口々に初春を褒め称えた。

「やりましたわね、初春」
「ありがとうございます」

 えへへ、と頬を緩める花飾りの友を横目に、佐天が目と口元を弓にする。
常日頃から一生懸命な親友が褒められたのが、我が事のように嬉しかったからである。

「でも、佐天さんのおかげなんですよ。最初に、犯人に気づいて足止めしてくれたんです」
「いやいや、こっちはたまたまです。それより、初春なんて押さえ込みですよ押さえ込み。柔道家もびっくりな、横四方固め!」

 互いに功績を譲り合う二人に、美琴たちは表情を和ませた。まったくもって、いいコンビである。

「でも、姿が見えない相手なのにたいしたものだわ。私なんか今日のお昼に取り逃がしちゃったんだから」
「え、マジですか?」
「そ。マジよ」

 学園都市第三位の少女が捕縛し損ねた犯人を二人がかりとはいえ捕まえることができたという事実に、佐天は数秒声を失って、それから、初春にひしと抱きついた。

「ともかく、これで奪われた下着が返ってきますわね」
「あー、そうね。私たちの手元に戻るのは、取調べが終わってからだろうけど」

 人の口に戸は立てられない。
最悪、御坂美琴は柄物パンティを履いているという噂が広まる可能性も考えなければなるまい。

「どうかしましたの、お姉様。少々顔色が」
「なんでもないわよ。大丈夫」
「でしたらいいのですが」

 美琴は無理に笑顔を作って、気持ちを切り替えることにした。
今から悩んだところでどうすることもできない。
結果が変わらないのなら、その時になってから気落ちすればいいのだ。

「ところで」
「うん?」

 心なし寄り添ってくるツインテールの後輩に、電撃使いの少女は目を瞬かせた。
何か大切な話でもあるのだろうか。

「お姉様。今宵は安心して愛を営むことができますわね」
「は?」

 思わず聞き返してしまった美琴の前で、瞳を潤ませた白井の告白はなおも続く。

「何も遠慮することはありませんわお姉様。どうか黒子めにお任せを。心を込めてご奉仕いたしますの。お姉様のためならば、一晩や二晩の睡眠など不要!」

 真剣に言い寄るその姿は一種異様であった。

(犯人が一体何者だったのか……きっちりと調べる必要がありますわね)

 何しろ、内心のつぶやきと言動がまったく一致していない。
そして、内外の不均衡は一気に欲望の側へと針を傾けた。

「おっねえさまぁぁぁぁぁぁッ!!」
「本音と建前を逆転させるんじゃないわよ、この変態!」

 美琴の電撃と言葉による突っ込みは、ツインテールの少女を即時に眠りの世界へと導いた。

ver.1.00 10/7/20
ver.2.30 13/9/14

〜とある下着の強奪事件・舞台裏〜

「お姉様、今からそちらのベッドに移っても構いませんか?」

 常盤台が保有する女子寮の、御坂美琴と白井黒子にあてがわれた一室で、暗闇の中、パジャマ姿のツインテールの少女はそっとささやいた。
質問調でありながらも半ば独りごちる風であったのは、すでに美琴が眠っているかもしれないと考えたからで、無性に、側にいたいという想いがこみ上げてきて、口にせずにはいられなかったのである。

「いいわよ、別に」
「そうですわよね」

 一拍を置いて返ってきた言葉に、白井は残念そうにタオルケットをかぶろうとして、大きく目を見開いた。

「って、お姉様、まだ起きてらしたのですか」

 正直、O.K.をもらうことはおろか、返事すらないものと思っていたツインテールの少女は、表情を喜色で染め上げつつがばっと身を起こした。
だが、その色合いは不意にほんの少しかげり、放つ言葉に微かな困惑が入り混じる。

「ですが、あの」
「うん?」

 美琴は寝返りを打つように、天井から左方にある後輩の方へ向き直った。
その表情は、窓から漏れ入る光のみではっきりとは見えないが、ぬか喜びさせようと、承諾したわけではないようだった。

「お姉様。よろしいのですか」

 普段なれば黙殺され、あるいは冷たくあしらわれ、電撃ないしは枕が飛んで来てもおかしくはない場面である。
白井が重ねて確認するのも無理はない。

 しかし、だ。

「いいも何も、アンタが一緒に寝たいって言い出したんじゃない。要らないなら私は別にいいんだけど」

 台詞とは裏腹に、美琴はおいでと言わんばかりにタオルケットをわずかに持ち上げ、ツインテールの少女はあわてて首を左右に振った。

「いえ! 要ります! 要るに決まっていますの! それはもう、ぜひともご一緒させてくださいませ!」
 勢い込んで宣言するや、即刻に空間移動(テレポート)してきた後輩を、常盤台のエースは珍しくも小さく苦笑しただけですんなりと受け入れた。

(それにしても、いったいどういった心境の変化でしょうか。ついに、わたくしの献身的な愛がお姉様に届いたとか)

 呼気が溶け合う距離で美琴と向かい合うことで自然と鼓動が早まる中、都合のいい解釈によって妄想モードに突入し一人身もだえし始めかけた白井は、ついと袖を引かれて我に返る。

「それで?」
「それで、とは」
「このまま寝るか、それとも少し話をするか、って事」

 ツインテールの少女にとって、これは迷う必要などまったくない問いかけだった。
それでも答えるのに数秒を要したのは、嬉しさのあまり、言葉が出なかったのである。

「お話したいです」
「奇遇ね。私もそう思っていたの」

 ふふ、と唇を弓にする電撃使いの少女に、白井はわずかに頬を紅潮させつつ顎を引き、上目遣いになった。
こんな風に扱われると強く照れてしまって、まともに顔を見れなくなってしまう。

「黒子」
「はい」

 名を呼ばれて応えた瞬間、抱き寄せられて白井は息を飲んだ。否、呼吸が止まった。
高く跳ねた鼓動のせいで、そのまま心の臓すら止まるのではないかとさえ思えた。

「一応言っておくけど、勘違いしないでよ。よくがんばったから、たまにはご褒美を、って思っただけだから」

 美琴は身を硬くする後輩の背をあやすようにぽんぽんと叩くと、優しくほほえんだ。

「そのお気持ちは嬉しいのですが、犯人を確保したのは初春たちですわお姉様」

 風紀委員の仕事に関して白井黒子に妥協の二文字はなく、かつ、己に課すハードルは高い。
結果至上主義ではないものの、この場合、褒美をもらうとすれば初春及び佐天であって、白井ではないのだ。
今回の事件を解決するべく全力を尽くしたつもりではあるが、もっと上手く立ち回れたのではないか、と考えてしまう。

「何言ってんの。アンタだって、精一杯やってたじゃない」

 超電磁砲は後輩の胸の内を汲み取って、殊更明るく言い放った。

「……お姉様」

 大好きな人に、敬愛する人間に褒められることは、なんと心地がよいのだろう。
ツインテールの少女は万感胸に迫って語を継ぐことができず、泣き顔に近い笑みで見つめ返すばかりだった。

「だからね、黒子。今夜はアンタに色々してあげる」
「色々って、お姉様」
「そんなこと、最後まで言わさないで」

 恥ずかしそうにつぶやいて顔を寄せてきた美琴の、柔らかな唇の感触を、白井は目を閉じるすら忘れたまま、真っ赤になって受け止めた。


「ぐふふふふ、お姉様。そこは、駄目ですの」

 気絶している人間が突然発した不気味な寝言に、美琴はぎょっとした。
テーブルの向かいに並んで座っていた初春と佐天は、一度顔を見合わせてから苦笑いをする。
和気藹々とした空気は、たったそれだけで白井色に染まった。

「いったいどんな夢を見ているんだか」

 膝の上でお姉様、を連呼する後輩に、電撃使いの少女は口元を引きつらせたまま嘆息する。

「白井さんの事ですから、きっといかがわしい夢を見ているはずです」
「うん。間違いないね」

 おそらく、いや、一〇〇%桃色の光景が広がっているに違いない。

「お姉様」

 今度は何よ、と言いかけた直後、美琴は絶句した。

「大好きですわ」
「な」

 三対の視線を浴びながら、白井は穏やかな表情で、照れくさそうに笑みながら再び好き、と繰り返す。
訪れた沈黙は、すぐに破られた。

「まったく、なんなのよいきなり」

 赤面し、唇を尖らせる常盤台のエースに、初春と佐天は思わず目を輝かせてうなずき合う。

「御坂さん、照れていますね」
「ええ、これは間違いなく照れていますね」

 ひそひそとささやきあう後輩たちの声が聞こえなかった振りをして、美琴はそっと白井の頬に触れるのだった。



 とある下着の盗難事件、後編です。ようやくここまでこぎつけることができました。
一体あの犯人は何者なの、と思われたかもしれません。
あ、一応言っておきますが展開に困ったので適当に出したわけではありません。
まあ、科学と魔術、どちらの陣営に属するかはともかく、女の子である辺りはとあるシリーズらしい、と思っていただければ幸いです。次の新刊でも、また女性キャラが増えるのでしょうか。

 ちなみに、舞台裏の黒子は夢の世界なので髪を結んだままですが、就寝時はちゃんと解いています。念のため。

 それでは、再び皆さまとお会いできることを祈りながら。



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