とある乙女の恋姫無双(エロバトル)!?』へ


 常盤台のエースはベッドの上で、目を閉じていた。
 結局、今日の出来事は何だったのだろうか。
目を覚ました時、日陰に運ばれていて、スキルアウトの少女は泣きそうな顔をしていた。
確かに自分の足を使ったはずなのだが、どうやって帰ってきたのかあまりよく覚えていない。

 着替えもせず、シーツの上に身を投げ出したまま、気づけばルームメイトの後輩が戻っていた。
言葉を交わした気はするが、内容はまったく印象に残っていない。
 代わりに思い出したのは、身につけている薄手のポロシャツを手に入れた時のことだった。
これは夏用の普段着を充実させようとデパートを訪れた際、愛用しているブランドの、
特売セールのワゴンに乗っていた一品で、デザイナーの気まぐれか、
これまでのものとはまったくコンセプトが違っていたのだが、
値段の安さ以上に肌触りの良さが購入の決め手となり、多少の寸足らずには目をつぶったのだ。
通気性がよく過ごしやすいことから度々袖を通すまでの、お気に入りとなっている。

 こうしたレトロかつ無意味とさえ言える記憶を反芻することで、
昼の出来事を意識から追い出そうとする徒労感しか生まない試みの継続は、はたと途切れた。
空間移動によって椅子の上から白井がダイブしてきたのである。

「おっねえさま! わたくしに、構ってくださいませ!」

 無論、風紀委員の少女は美琴の様子がおかしいことに気づいている。
肉体的なものなのか、精神的なものなのか。原因は不明であるものの、
目に見えて意気消沈しきっているのだ。わからないはずがない。
 その上で、あえて空気を読まずに動いたのは、少しでも元気づけたいと考えてのことだ。
拳にせよ、電撃にせよ、はしゃぎ回る白井を一喝することで、いつもの調子を取り戻すきっかけになればいい。

 一方で、己の欲望を満たさんとする気持ちが少なからずあるところは、いかにも白井黒子らしい。

「……黒子」

 しなだれかかる後輩に、常盤台のエースはのろのろと目線を移した。

「黒子は、黒子は寂しゅうございますわ。さっきから必死に悩殺ポーズを取り続けていましたのに、
お姉様ったらわたくしのことを一顧だにしないどころか気づいてもいらっしゃらないのですから」

 シャワーを浴びた時に解いた髪をポニーテイルに結い直すことを
悩殺と呼ぶのならば話は別であるが、半分以上、口からでまかせである。

 それを受けて、美琴は眉尻を下げ、力なく口の端を緩めた。

「……ごめん」
「いいえ。許しませんわ。ほお擦りでもしないことには、繊細なわたくしの心は癒されませんの」
「……ごめん」

 普段の快活さはどこへやら、のれんに腕押しとはこのことである。
 それでも、白井はめげずに言葉を重ねる。

「このままではショックのあまりキス魔になってもおかしくありませんわ、お姉様」
「……そっか」

 これみよがしにペリカンのように唇を突き出してみるも、
ほとんど反応がない。どうやら、かなり重症のようだ。

(くっ、いったいどうすれば。でも、ものは考えようですの。
そう、これは千載一遇のチャンス。お姉様をクンカクンカし撫で回し舐め回す、好機!
黒子は、黒子は……みなぎってきましたわ!)

 ポジティブというよりは病的な思考を経て、白井は敢然と唇を重ねることを決意した。

「いざ……!」

 だが、彼我の距離が数センチに迫ったところでポニーテイルの少女は動きを止める。
 このままでは、なんの抵抗もないままにキスができてしまう。それは、本意ではなかった。

「……お姉様」

 もはや、形振りに構っている場合ではない。
事情によっては放っておくのも手であるが、今の美琴はあまりにも頼りなく映る。

 退かず、立ち止まりもしないのであれば、前へ進むより他はない。
 もっとも、それは相手の胸の内を一切斟酌しないということではなく、
問いかけはごく慎重に選び抜かれた言の葉で綴られた。

「何がありましたの、お姉様」
「何が、って」

 先輩が目を泳がせるのを見た白井の眉がきりりと釣り上がる。

「まさか、あの類人猿がとんでもない粗相を!?」
「ううん、そうじゃない」

 力なくかぶりを振る美琴の瞳は、後輩を捕らえながらも別の何かへと向けられているようだった。

「そうだったらよかったかもしれない。ううん、そうだったらよかった」
「え」

 思いも寄らない返答に、風紀委員の少女は継ぐべき語を見失う。
適当なことを言ったつもりが、地雷を踏み抜いてしまったのか。

「ねえ黒子」
「はい」

 電撃使いの少女は遠い目をしながら、淡く口もとをほころばせた。

「今から、いけないことをしよっか」
「は」

 白井の目が点になる。聞き違いかと思ったのも無理はない。
常盤台の内外から憧れられる人の発言とは思えなかった。

「いけないことと申しますと」
「アンタが普段あたしにしようとするようなこと」

 たとえば、覗き。下着を頭からかぶること。スカートめくり。浴場で抱きつくこと。
道具の有無を問わず行われるセクハラ行為。食べ物に媚薬を混ぜようとすること。夜這い。

 風紀委員の少女の頭に、一瞬のうちに浮かんだ幾つもの候補だったが、
その中のどれを指しているかがわからないほど鈍い彼女ではない。
思わずたずね返してしまったのは、まさに、狐につままれたような心地だったからだ。

「でも、一つだけ約束して欲しいことがあるの」
「それは」

 戸惑い混じりの合いの手を受けて、美琴は眉尻を下げたまま笑みらしきものを口もとに浮かべた。

「お腹は触らないで」

 こういう時、どんな顔をすればいいのであろう。

 白井はまず息を飲み、伸ばしかけた指を握り締め、きつく唇を噛み締めて、意志の力で満面をほほえみで彩る。

「……わかりました」

 隠そうとしてもなお声音ににじむ気遣いの響きに、常盤台のエースは気づいているのかどうか。

「でも、お姉様。本当に」
「いいの」

 後輩の笑顔に潜む、深い悲しみを美琴は知っているのか。

「なんだか、そういう気分だから」

 捨て鉢になっているとしか思えない言葉が、
聞く者の心にどれほどの傷をつけているのか、わかっているのだろうか。

「……わかりましたわ」

 白井はそっと先輩の手を握ると、柔らかくほほえむ。
今感じたばかりの辛さなど、微塵もなかったかのように振る舞う。

「では、今夜は時間を気にすることなく夜更かしをいたしましょう」
「……黒子」

 美琴の意識は、ようやっとルームメイトの姿を捕らえた。

「聞いてくださいましお姉様。昨日、初春ったら……」

 殊更滑稽に身振り手振りを交えて語る白井の姿は、見ているだけで自然と頬が緩んでしまう。
 そのせいだろうか。関係がないはずの、別の箇所にも効果を及ぼしてしまったようだった。

「あは、ははは」
「あの、お姉様?」

 いきなり手のひらで顔を覆って笑い出した先輩に戸惑いをみせる風紀委員の少女だったが、
それはすぐに安堵へと変化する。

「なんでもない。で、初春さんがどうしたって?」

 完全にいつもの調子を取り戻したわけではなかったが、続きを促す声には力強さがあったからだ。


「さすがに眠くなってきちゃった」
「そうですわね」

 眠気を覚えるのも当然である。ベッドの上に転がり、あるいは起き上がって座り、
体勢を変えながらたわいのない話を続けるうち、いつの間にか外は明るくなりつつあった。

「そういえば、こんな風に一晩過ごしたのって、初めてね」
「ええ。心躍る時間でしたわ」

 くつくつと喉の奥を震わせて笑う白井に、美琴は内心こちらこそ、とつぶやきながら目を線にする。

「大げさね」
「そうでもありませんの。普段も、お姉様とご一緒していますと飽きることがありませんし」

 自分から首を突っ込んでいる割合はさておいて、第三位の少女は頻繁に事件へと巻き込まれている。

「遠回しにトラブルメイカーと言いたいわけ?」
「さあ、何のことだかわたくしにはさっぱり」
「とぼけちゃって」

 美琴は拗ねた振りをしたかったのか唇を尖らせようとしたものの、
沸き出でるおかしみのせいでそうすることができない。

「いずれにしても、敬愛するお方と過ごす時間はわたくしにって幸せ以外の何物でもありませんわ」
「黒子」

 これは独り言ですが、と前置きをして風紀委員の少女は静かに目を閉じる。

「わたくしの立場からすれば自重を促さざるを得ないのですけれども、
お姉様には思うままに生きて頂きたいというのが本音ですの。
そうしている時のお姉様は活き活きとしていて、まぶしいくらいに魅力的ですわ」

 学園都市でもっとも御坂美琴に触れる機会を持っているのは、
間違いなくルームメイトの白井黒子である。
学年こそ違えど、一日の半分近くは空間を共有しているのだから。

「いつでも、何なりと言ってくださいませ。わたくしは、お姉様の味方です」
「そっか。ありがと」

 美琴は心からのほほえみを後輩へと向けた。
話を始めるまではひたすら重く圧し掛かっていた昨日の出来事も、今はそれほど気にならない。

 風紀委員の少女は、じっと見とれてしまった後であわてて視線を伏せた。
いつものように勢いで好意を伝えている時にはない反応だが、白井とて年頃の娘である。
想いを寄せる人は、やはり特別なのだ。

 一方が口を閉じれば当然会話は止まる。穏やかな沈黙が二人を包み込む。
 しかし、朝特有の静けさの中にあっても、一度高ぶった想いはそう簡単に収まるものではない。

「あの、お姉様」
「ん?」

 頬を紅潮させながら、白井は無意識のうちに唇へと力を込めた。

「額に……」
「額に?」

 途切れてしまった台詞に、常盤台のエースは小首を傾げる。
 風紀委員の少女は、尻込みしそうになる自身の心に鞭を入れて、言葉を吐き出す。

「額に、キスをしてくださいませんか」

 先ほどまでとは少し毛色が異なる沈黙は、明るい笑い声によって破られた。

「なにを言い出すのかと思ったら。まったくアンタは」

 白井は何も答えることができない。先輩の様子を、固唾を飲んで見ていることしかできない。
 恋愛において、先に惚れた方が負けなのだと言ったのは、誰であろう。
 だが、恋の女神はそれほど意地が悪くはないらしかった。

「はい。これでいい?」

 肌に接した時間はほんの一瞬、かすめた程度の接触であったが、
額に残る柔らかな感触に風紀委員の少女は真っ赤な顔で何度も瞬きをする。
キスを望んだものの、まさか、本当にしてもらえるとは思っていなかったのだ。

「そんなに驚くこと、ないんじゃない? 大げさなんだから」

 ふふ、と微笑する美琴もまた、目もとを桜色に染めている。
場所が額とはいえ、キスは彼女にとって適当に扱うようなものではない。
少なくとも、気まぐれでするようなことではないし、普段であればいくら頼み込まれたとしても、断るはずだ。

 もちろん、重々しい意味を持つものにする気などさらさらなく、
だからといって軽々しい気持ちでやったわけでもない。
求めに応じたのは、感謝の表れであると同時に、少なからず別の思いも込められていた。
他ならない、白井黒子が相手だったからこそ、だ。

「お姉、様」

 風紀委員の少女は、かろうじてそれだけを口にした。
今の心境を、いったいどう表現すればいいのだろう。
あまりにも幸せすぎると、人はどう表現すればいいかわからなくなってしまうものなのか。

「もう一度、って顔をしてるわね」

 常盤台のエースはわずかに歯を覗かせて、後輩の髪をくしゃっと撫でた。
そのまま後頭部へと手のひらを滑らせて、結われた髪を指先でいじる。

「それは、それは当然ですわお姉様。天にも昇るような、とはまさにこのこと。
わたくしの人生が今この場で終わったとしても構わないと思えるくらいですの」

 白井は心地よさそうに目を細めながら、ゆっくりと語を継いだ。

「ですが、人は欲張りな生き物ですわ。もっと、とより多くを求めてしまいますの」
「より多く、って」

 毛先を指で梳く動きが止まる。
だが、美琴は言葉の意味を考えることも、返事をすることもできなかった。

「たとえばこうですわ、お姉様」

 そんなつぶやきと共に、唇をふさがれてしまったからだ。

「黒子」

 名を呼ばれた少女は無言のままに柔らかな唇へ、再びキスをする。
その感触を確かめるように唇で挟み、軽く歯を立てる。
呼気は乱れ、わずかに口が開いた。そこへ舌を差し入れ、並びのいい歯列をなぞっていく。

 時折、唾液の味が甘く感じられるのは気のせいだろうか。
濃厚なキスを続けているせいか、意識はおぼろげとなり、思考があやふやになっていく。

 白井が息継ぎのためわずかに距離を離すと、
すぐさま追いすがるように迫ってきた唇が頬をかすめた。
お返しとばかりに、美琴の頬、瞼、鼻の頭とそこかしこにキスの雨を降らせる。
唇が触れるその度、かろうじて拾えるくらいの声が上がる。

 首筋に口付けると、常盤台のエースは閉じたままの目をきつくつむった。
そのまま唇を這わせていき、耳たぶへと触れた時である。

「はン」

 風紀委員の少女が艶を帯びた鼻にかかる声に動きを止めると、
美琴は唇にぐっと力を込め、顔全体を真っ赤にしながら恨めしそうに上目遣いでにらみつけてきた。

「くすぐるつもりはありませんでしたが」
「そうじゃない。そういうのじゃないけど……あン」

 白井は最後まで聞かずに耳の縁を撫でる。
台詞は嬌声へと変わって第三位の少女があわてて指を押さえてきた。

「ちょっと、変な声が出るじゃない」
「ええ。いつまでも聞いていたくなる、可憐な音色ですわね」
「可愛くなんて……ひゃぅ」

 耳たぶを甘噛みれた途端、美琴は甘い音色を奏でる。

「耳を触られるのは、気持ちいいですか?」
「バカ。恥ずかしいこと、聞かないでよ」
「では、直接お姉様の体にたずねてみますわ」
「え? ちょっと待って……きゃン」

 風紀委員の少女が強めに耳を唇で挟みつつ舌で刺激すると、甲高い子犬のような声が上がる。
 次いでつかまれていた腕を逆につかみ返し、頭上で固定し耳の裏を舐め回した。
悶え、逃れようとするのに合わせて体を動かしつつ、その周辺を重点的に攻めていく。

「あ、だめ……あ、は……ン」

 反応を堪能し終えた頃には、美琴は息も絶え絶えで、着衣は乱れ、すっかり肌が露出していた。

「……っ」

 白井はうっすらと汗がにじむ白皙の肌と、そのチラリズムに思わず生唾を飲む。
そこへむしゃぶりつきたい気持ちをぐっとこらえ、少しの間、先輩の呼吸が落ち着くのを待つ。
 そっと手を握ると、美琴は薄く開いた目を弓にした。
安心しきったほほえみは童女が浮かべるそれのようであり、
一方で漂うほのかな艶っぽさとのギャップが、体の奥底を熱くさせる。

「ところでさ、黒子。盛り上がっているとこ悪いんだけど、いい?」
「なんですの、お姉様」
「いや、アンタとこういうことするのがイヤ、ってわけじゃないんだけど」

 心持ち鼻息の荒い後輩の両肩をやんわりと押しとどめながら、
常盤台のエースは困ったように苦笑した。

「あたし、昨日はシャワーを浴びてないから、中断したいんだけど……」
「何を仰いますか、お姉様。むしろそれがいいんですの。
お姉様がかいた汗なら喜んで嗅ぎ回したい……はっ、しまった、つい本音が」

 真顔で妙なことを口走る白井に、美琴は思わず吹き出した。
そこで、どろどろとした気分がいつの間にやらどこかへ飛んでいることに気づく。
当然である。悩んでいた自分が馬鹿らしくなってくる。

「少し真面目に答えさせて頂きますと、わたくしたちは一晩中一緒でした。今さら、ですわ」
「まあ、ね」

 もっともな意見だった。確かに、今さらという気はする。

「これから二人で汗だくになってしまえば、お姉様も気にならなくなりますわ」

 しかも、この台詞である。

「本当にアンタって、バカね」
「はい。お姉様のためだけの、大バカです」

 第三位の少女は目の前の愛しい後輩を抱きしめた。
そのまま磁石が引き合うように顔を寄せ、深くキスをする。

 唇を離すと、唾液が細い糸となって二人をつなぎ、
それに気づいて、両者は照れくさくなって笑みを交わす。

 今度は白井の方から浅い口付けを二、三度すると、美琴はくすぐったそうに眉尻を下げた。
それから、不意に目を見張り、次いで視線を伏せ、後輩の袖を軽く引く。

「やっぱりさ、カーテン、閉めてくれない? 恥ずかしいんだけど」
「いけませんわお姉様。そんなことをしたら、お姉様のお姿がきちんと見えませんもの」

 そう言いながら、白井は空間移動で窓まで飛んでカーテンを引き、すぐにベッドの上へと戻ってきた。

「ありがとう」
「礼には及びませんわ。それよりも、お姉様」
「ん……」

 軽く唇を突きだす後輩に、電撃使いの少女はちゅ、とキスをする。
何度かそれを繰り返して、甘い余韻に浸る。

 そんな中で、ぽつりと次の台詞がこぼれ落ちた。

「一応言っておくけど、アンタが初めてなんだからね」

 風紀委員の少女は息を飲み、目を見開く。それから、ほう、と息を吐いた。
こんなことが、こんな奇跡があるのだろうか。

「わたくしもですわ」

 白井はあふれて止まない喜びをしみじみと噛みしめながら、胸に手を置く。

「……そっか」

 淡いほほえみを浮かべて、美琴は瞼を下ろした。優しい沈黙が、周囲に満ちる。

「お姉様。黒子はまだまだ戦えますわ。さ、続きを」

 瞳を和ませつつ冗談めかした語をこぼしてから、風紀委員の少女ははたと首を傾けた。

「あの、お姉様?」

 幾ら呼びかけようと、返事はない。どうやら、本当に眠ってしまったらしい。

「生殺しなんて、あんまりですわお姉様」

 声を大にして叫びたいところだったが、
先輩を起こしてしまうわけにもいかず、白井は胸の内で血の涙を流すのだった。

ver.1.00 11/6/1

〜とある乙女の口唇接触・舞台裏〜

 目が覚めると、腰の上に銀髪の少女がまたがっていた。

「何やってんだお前……って、いやいや待て待て待ってくださいインデックスさん!
どうしてあなたは私めをそんなもので打とうと腕を振り上げているのでせうか」

 思わず素のツッコミを入れようとしたツンツン頭の少年の意識が一気に覚醒へと向かう。
今にも振り下ろされようとしている洗面器を押しとどめようと腕を伸ばしながら懇願する様は、
幾度となく学園都市や世界を守ってきた者とは思えない残念さだった。

「とうま」
「はい、なんでしょうかインデックスさん」

 据わった目を向けられて、当麻は戦慄していた。
正確な時刻はわからないが、深夜にわざわざこちらの寝室、
すなわち浴槽の中までやって来て文句を言うのだから、よほど腹にすえかねることがあるのであろう。
つい声が上ずってしまったのも、無理はない。

「とうま」

 インデックスはゆるゆると腕を下ろすと、何を思ったのか顔を寄せてきた。同時に、ふわりと甘い香りが漂う。
 一拍の後、幻想殺し(イマジンブレーカー)の少年は息を飲んだ。
普段であれば色気など微塵も感じさせない薄手の寝巻き姿は、
微かに差し込む月明かりによって生まれた陰影の加減により、
ごくささやかな起伏しか持たないはずのボディラインがくっきりと見えたからだ。
それは、あたかも成年向けの雑誌に掲載される一枚のようであり、
鼻腔をくすぐる匂いも手伝って、若気の至りがむくむくと鎌首をもたげる。

「なんだよ」

 そっぽを向きながらのぶっきらぼうな返答に、禁書目録の少女は軽く唇を突き出した。

「とうまはこの問題についてどう考えているのか、詳細に述べるべきなんだよ」

 近づけた顔はそのままに、人差し指でとんとんと胸を叩いてくる同居人に、
当麻は屹立したある一部分が触れないよう腰の位置を調整しながら、 お冠の姫君をいたずらに刺激しないようにおずおずと問い返す。

「あの、この問題と言いますと」
「そんなの、自分の胸に手を当てて考えればいいんだよ。とうまのバカ。バカとうま」

 ツンツン頭の少年はどう応えたものかと苦笑する一方で、
呼気に混じる微量のアルコールの臭を嗅ぎ取って、天を仰いだ。
冷蔵庫に入れていた焼き菓子にたっぷりと入っていたラム酒か、ウイスキーボンボンか。
あるいは、その両方が揃って、酔いどれが誕生してしまったのである。

「いや、申し訳ない。俺が悪かった。だから、今夜は取り敢えず寝ようぜ」

 このまま放っておけばどんな暴挙に出るかわからないと踏んだ当麻は、明るい声でそう言った。
生理現象の方は嵐が過ぎ去るまでひたすら耐え抜くしかない。

「ところでとうま」
「なんだ」


「さっきからお尻に何か硬い物が当たっているんだよ」

 現実を打ち壊す手段の持ち合わせなどないツンツン頭の少年は、
「インデックス!」
「何? って、え?」


「今日はやけに冷えるな、ははは」

 まったくごまかしになっていないと


 美琴SSです。久々に、美琴と黒子の百合ゆりストーリーを書いてみました。
こうして美琴たちの話を書きますと何を言っても二人の掛け合いが大好きなのだと、改めて感じます。

 それでは、再び皆さまとお会いできることを祈りながら。



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