それはある晴れた日の午後のこと、時刻はちょうど三時を回った頃だった。
先ほどから窓の外に目を向けて沈思黙考を貫いていた金髪の生徒会長は、
やおら立ち上がるとテーブルの向かいに着く面々を笑顔で見渡して朗らかに言う。

「よし、王様ゲームをやりましょう」

 唐突なミレイの発言に反応し、居合わせた三人は一様に顔を上げた。

「なんですか会長、唐突に」

 まず一人目は亜麻色の髪を持つ生徒会の元気印、シャーリー・フェネット。
美人というより愛嬌のある顔立ちをしていて、
ぱっちりとした茶色の瞳はまだまだ幼さを感じさせる。
しかし、こう見えて肩幅などは意外に広くスタイルはいい。
何故なら彼女は生徒会メンバーでありながら水泳部員を兼ねているからで、
ノリは体育会系寄りだったりする。

「王様ゲーム」

 生徒会長から見てシャーリーの右隣でぽつりとつぶやいて小首を傾げたのは、
皇帝直属の騎士、ナイトオブシックスのアーニャ・アールストレイム卿だ。
中等部の制服に身を包んだ可愛らしい顔立ちの小柄な少女で、
やや赤みを帯びた不可思議な瞳を持ち、淡紅色の長髪をアップにしている。

「……」

 その反対側、亜麻色の髪の少女の左隣に座る黒髪の少年は、
紫水晶を思わせる色の瞳をミレイ・アッシュフォードに向けただけで、
すぐに手元の書面へと目線を戻した。言葉に出していないだけで、
いちいち会長の思いつきに付き合っていられないという思いがありありと表情に浮かんでいる。
前述の二人とは違って、 (はな)から協力する気はないらしい。
彼の名はルルーシュ・ランペルージ、肩書きは副生徒会長で容姿端麗かつ頭脳明晰であるのだが、
皮肉屋でサボリ魔という一般的に好ましくない二つ名を金髪の生徒会長からつけられている。

「さて、と」

 三者三様の反応を受けて、ミレイはにんまりと笑い両肘を抱えるような形で緩く腕を組んだ。
それから、思い出したように悠然とシャーリーを見やる。

「別に大した意味なんてないわよ。ふと思いついただけで」
「はあ」

 曖昧なうなずきを返して、亜麻色の髪の少女はぱちくりと瞬きをした。
ミレイはもうじき卒業するため、生徒会長でいられるのはあとわずかだ。
当然、同じ面子とこの場所で集まることはできなくなる。
ならば、今のうちに何か思い出作りをしたいと考えても不思議ではなかった。
だとすれば、ここは喜んで協力するべきだろう。

 しかし彼女のこうした思いが口に出されることはなかった。

「よし。シャーリーは賛成ね」
「え」

 シャーリーが返事をするよりも先に、
金髪の生徒会長はまさしく瞬く間に賛同者を一人確保してしまったのである。
もっとも、いくら嫌がったところで否応なしに首肯させられていたことは想像に難くないのだが。

 ミレイは続いて淡紅色の髪の少女に目を向けて問いかけた。

「アーニャちゃんもイヤじゃないよね」

 アーニャは迷うことなくこくりとうなずく。
王様ゲームがどのようなものかわからないため、特別に嫌悪する理由がない。
それを判断する材料自体が彼女の中にないからだ。

 もちろん、生徒会長はどういう返事があるかわかった上でたずねている。
そしてミレイはこの一手をもって黒髪の少年に王手をかけた。

「というわけだから、ルルーシュ」
「……好きにしてください」

 ルルーシュは気だるげに肩をすくめて苦笑した。
やんぬるかな、完全にチェックメイト/rb>(詰 み)だ。
四人のうち自分を含めた半数の意見を押さえた上で、 一人分の票を無効にされてしまってはどうすることもできない。
しかしこれこそが民主主義ならではの多数決、
別名数の暴力と言うもので、少数意見は問答無用に黙殺される運命にある。

 さすがは生徒会長と言ったところか。
遊びのためなら、否、遊びのためだからこそ全力を尽くすのだ。

「さて、反対意見もないみたいだしさっそくルールの説明と参りますか」

 システムを理解していない約一名にウインクを飛ばして、
ミレイは組んだ腕をわずかに崩して立てた人差し指を胸の高さまで持ち上げた。

「仕組みは簡単、くじを引いて王様に選ばれた人が他の人に命令できるの。
たとえば2番を引いた人が3番の人の前で名前をお尻で書く、とかね」
「あ、尻文字っていうのはこうやってお尻を動かして自分の名前を書くことね。
別に名前でなくてもいいんだけど、こんな風にするの」

 色恋沙汰には奥手でもこういう時には積極性の塊、
シャーリー・フェネットはノリノリで席を立つと、
アーニャの鼻先できゅっと引き締まった臀部を使って「シ」を宙に描いていく。
 そして、躍動感に満ちた尻文字を見て、
淡紅色の髪の少女は納得したのか「なるほど」と首を縦に振った。

 その働きぶりに生徒会長は満足そうに口元を弓にしてうんうんとうなずく。

「うむ、苦しゅうないぞシャーリー」
「ふふふ、会長。お役に立てて何よりです」

 中指と薬指のみを握った拳を顔の横に掲げて応える亜麻色の髪の少女の背を見やりつつ、
ルルーシュは音を立てないように息を吐き出した。



「よぉーし、もらったわよファーストキング!」

 一回目のくじ引きにより、王の座はミレイのものとなった。
以下、2番はアーニャ、3番がルルーシュ、4番がシャーリーで、
1番が王の権利を手にすることになっている。
なお、番号が書かれたカードは用紙の切れ端を利用して作ったものだ。

「じゃあ、さっそく命じさせてもらうわ」

 ミレイは椅子に座る三人を左から順にゆっくりと眺めてから、おもむろに命令を下した。

「3番が、4番の前で三回転した後にお手!」

 ルルーシュとシャーリーはむちゃな内容でないことにほっと胸を撫で下ろし、
アーニャは表情を変えることなくそっと首を傾ける。

「えっと、4番は私だけど3番は?」
「俺だ」

 黒髪の少年はカードをテーブルの上に置くと、大儀そうに席を立った。
それから一歩後ろに下がり、
クラスメイトの少女がこちらを振り向くのを待って優雅に三度回転する。

 ブリタニア皇族の生まれは伊達ではない、と言ったところか。
社交界で暮らしていくのに欠かせないダンスや身のこなしはもちろんのこと、
テーブルマナーを始めとする諸々を
幼き頃から叩き込まれてきた彼にとってはなんでもないことだが、
落ちぶれたとはいえ貴族の出であるミレイや、
日頃からやんごとない人々と接しているアーニャにとっても、
ましてや庶民であるシャーリーからすればどこまでも洗練された動きに映る。

「……っ」

 ただその場で三回転しただけだというのに、
亜麻色の髪の少女は目前で展開された光景を、
瞬きをすることも忘れて息を飲んで見つめてしまう。

 ルルーシュは足を止めるやすっと跪いて、シャーリーに次なる行動を促した。

「手を」
「あ、はい」

 亜麻色の髪の少女はあわてて手のひらを上向きに差し出し、
黒髪の少年は落ち着いた所作でそこに手を置く。

 これにて無事、最初の王命は果たされた。


 ぼんやりと自分を見つめるシャーリーのまなざしに気づくことなく、
やれやれと胸中こぼして立ち上がったルルーシュを見て、ミレイはニヤリと口の端を上げた。

「さ、今度はルルーシュがカードを切る番よ」

 ちなみにここでは命令を実行した者が次のカードを配る係りに回る決まりで、
このルールによって不正に対する一応の予防線を張っているのある。

 だが、運命の女神が引き起こす気まぐれにまでその力は作用しないらしい。

「へえ、今度も私が王様ね」

 再び1番を引いた金髪の生徒会長は明るい声で至尊の地位に就くことを宣言した。
ちなみに2番はシャーリー、3番がアーニャ、4番がルルーシュである。

「じゃあ、4番が2番の前で尻文字! こう、かわいらしくするのよ。求愛、って感じに」

 ミレイはひらひらとスカートをひらめかせて腰を振ってから、ガーッツ、と拳を突き上げた。
これは自他共に認めるお祭り娘らしい行動なのだが、
今回は二回続けての王にすっかりご満悦と見るべきだろう。

 黒髪の少年は視線を巡らせて、
自分と同じくこの場限りの家来となった二人の少女を見やった。

「ちなみに2番は俺だ」
「2番がルル……って、えー?!」

 途端にシャーリーの悲鳴と呼んでも差し支えのない、甲高い叫び声が上がる。

「な、どうしたんだシャーリー」
「ええええーっと、いや、別になんでもないよ、ほら、なんでもないの!」

 亜麻色の髪の少女はぶんぶんと立てた手のひらを左右に振って、
「なんでもない」ことをアピールした。その頬は桜色に染まっているが、
勢いに飲まれたのかルルーシュは突っ込むことができない。
そして、生真面目なシャーリーは顔を真っ赤にしながらも、
好きな人に臀部を突き出し必死の思いで自分の名前を刻んでいく。

「アーニャちゃん、不思議そうな顔をしているわね」

 見るともなしに尻文字を続ける少女に目を向けていた淡紅色の髪の少女は、
赤味を帯びた瞳で傍らに立つ生徒会長を見上げた。

「さっき、私の前でした時には生き生きとしていた」
「なるほど、確かにヘンな話よね。
たかだか相手が変わっただけで、どうしてなんだろうと思うのも無理はないわ」

 後輩の感情が欠けたまなざしを受け止めて、ミレイはそっと肩をすくめる。

「でも、シャーリーはやる気をなくしたわけじゃないし、
ルルーシュの前でお尻を振ることがイヤってわけでもないのよね、これが」
「イヤじゃない」
「条件に求愛がついてるからね。表面上は恥ずかしがっていても、内心喜んでいたりして」
「喜んでいる?」
「そ。まあ、あの男にそういった機微が通じるかどうかは別の問題なんだけど」

 くつくつと喉の奥で忍び笑いを漏らす金髪の先輩に、アーニャは再び小首を傾げた。


 その後は立て続けに王様となったナイトオブシックスが、
ルルーシュにシャーリーの頭を『撫で』させ、ミレイにルルーシュの『手の甲にキス』をさせた。
シャーリーは生徒会長にアーニャの『肩を叩かせ』て、
ルルーシュは淡紅色の髪の少女にミレイの『髪を三つ編にする』ことを命じたのである。

 そして迎えた第七回戦はまたもや金髪の生徒会長が王の座に着いた。
この時点ではまだ和やかなムードに包まれていた生徒会室だったが、
次の瞬間、文字どおり空気が凍りつく。

「2番と3番、コスチュームチェンジ!」
「……!?」

 これまでは階段の踊り場でのんびりとたむろしていたイメージだったものが、
一気に三段飛ばしで駆け上がるくらいにグレードアップした命令に、
ルルーシュとシャーリーは思わず息を飲み、
アーニャは例によって淡々とカードを皆に示した。

「2番は私」

 抑揚に乏しい少女の声を聞きながら、
3番の所有者だったルルーシュは大きく目を見開いて絶句する。
細身であるとはいえ骨格は男子のそれであるのだから、
小柄な彼女の中等部用制服を着るなどいくらなんでもひどすぎる。
もちろん、彼にとって可能かどうかは問題ではないのだが。

「……ちょっと待ってくれ会長。さすがにこれは」

 しかしミレイは異を唱えようとする黒髪の後輩の台詞を、手のひらを立てる仕草で遮ると、

「あら、王の命は絶対よ?」

 あっさりと命令撤回の請願を却下したばかりか、
満面の笑顔で耳を疑うような言葉を口にした。

「実はこういうこともあろうかと、
ルルーシュが着れるサイズの女子用制服をちゃんと用意しておいたのよ」
「は?」

 金髪の生徒会長は弾むような足取りでコートを吊るすための衣装がけに掛かっている
透明のビニールに覆われた新品の制服を手に取り、
呆気に取られている黒髪の少年に殊更優しくほほえみかけた。

「ほら、これなら着れるでしょう」
「どうしてそんなものがここに」

 耐え難い悪夢のような現実に自失のつぶやきを漏らすルルーシュを尻目に、
ミレイは二人の乙女たちに絶対遵守の令を発する。

「さ、シャーリー。ルルーシュをひっ捕らえてひん剥いちゃいなさい」
「か、会長、ひん剥くって……!」
「遠慮は要らないわよ。上からでも下からでも好きに脱がせちゃってOKだから」
「どちらからでも……」

 シャーリーにとって先輩の言葉はひどく妄想をかきたてるものだったらしく、
あっという間に彼女は顔だけでなく耳まで真っ赤になって口の端を緩めた。
生徒会長はすぐに亜麻色の髪の後輩が使い物にならなくなったと判断し、
淡紅色の髪の少女へと視線を移して目を線にする。

「アーニャちゃんも手伝って」
「わかった」

 アーニャはナイトオブラウンドの名に恥じない素早い挙動で黒髪の少年に駆け寄るや、
速やかに衣服を脱がせにかかる。

「待て、わかった! 自分で着替えるから止めてくれ……!」

 結局、アッシュフォード一のお祭り娘がしたかったことはこれなのだと、
それまで着ていた制服を剥がされ、恥辱の衣装に包まれる段になって
ようやくルルーシュは気づいたのだった。





ver.1.00 09/05/16
ver.1.80 09/05/17
ver.2.05 09/05/18
ver.2.20 09/05/18

〜ドキ!“女女男女”の王様ゲーム・舞台裏〜

C.C.  「そういうわけでこちらも王様ゲームをしてみようと思うのだが」
神楽耶「それは名案です、C.C.さま。やりましょうやりましょう」
天子  「あの、王様ゲームというのは……?」
カレン 「そうですね。詳しくは上記のやり取りを参照と言うことで」
C.C.  「準備はいいようだな。さて、すでにカードは用意してある。
    ルールはルルーシュたちがやっていたものに準じるとしよう。異論は?」
カレン 「別にいいんじゃない、それで」
神楽耶「異議なし、ですわ」
C.C.  「ふむ。私が王か」

 カードを引いた結果、2番がカレン、3番が神楽耶、4番は天子だった。

C.C.  「では、さっそく最初の命令をさせてもらおう」
天子 (ドキドキ)
C.C.  「3番が4番を抱きしめる、だ。情熱的にな」
神楽耶「ふふ、C.C.さまったら。ええと、4番の方はどなたでしょうか」
天子  「あ、あの」
神楽耶「まあまあ、天子さまでしたか。
    では僭越ながら私、皇神楽耶が抱きつかせていただきます」

 神楽耶は天子と向かい合うや背と後頭部にそっと腕を回し、優しく抱き寄せる。
至尊の地位に座する少女は頬をほんのりと桜色に染めつつぎゅっと目を閉じて、
六家の姫の袖をつかんだ。

カレン 「なんだか初々しいわね。天子さま、ちょっぴり頬が赤いし」
C.C.  「うらやましいのか? なんなら私が抱いてやろうか」
カレン 「ヘンな言い方しないで頂戴。それに、どうしてあんたは上から目線なのよ」
神楽耶「はい、お二人ともそこまでにして次々行きますよ」

 黒髪の大和撫子にいさめられて黒の騎士団きってのエースは矛先を納める。
そして今度の結果は王が神楽耶、2番はカレン、3番は天子、4番がC.C.となった。

神楽耶「では、4番が3番のスカートをめくってください」
C.C.  「3番は誰だ」
天子  「それは……」
C.C.  「では、前から行かせてもらう」
天子  「あ」

 C.C.は一切遠慮することなくスカートをめくり上げたため、
天子の真っ白な太ももがあらわになって、神楽耶とカレンは思わず感嘆の吐息をつく。
一度も陽にさらされたことがないのではないかと思われるほど透明感のある肌色だった。
描くラインの見事さは言うに及ばず、同性の目からも垂涎ものの美脚である。

 目の保養を完了した乙女たちはゲームを続けた。

神楽耶「ふふふ、またも私が王ですね」
カレン 「さすがの引きですね」

 今回は2番がカレン、3番はC.C.、4番が天子だ。

神楽耶「では、3番が2番の頬に口付けをしてくださいませ」
C.C.  「2番は誰だ」
カレン 「私だけど」
C.C.  「ではじっとしていろ」
カレン 「ちょっと待ってよ、心の準備が」
C.C.  「黙っていろ。キスがしにくい」
カレン 「だって」

 C.C.は目元を桜色に染めて顔を背けようとするカレンの顎をつかみ、頬にキスをした。

C.C.  「ついでに唇もしておくか?」
カレン 「はあ? 何言ってるのよあんたは」

 不死の少女を軽く突き飛ばし、赤毛の少女はそっぽを向く。

神楽耶「さて次は誰の番でしょうか。
    あら、さすがに3回連続とはいきませんでしたね」
C.C.  「ふ、今度は私が王だ」
カレン 「C.C.、その笑顔ちょっと怖いんですけど」
C.C.  「私からの命令はこうだ。2番が4番を後ろから抱きしめて耳に甘噛みをする」
神楽耶「4番は私ですわ。2番の方は」
天子  「……!」
神楽耶「ふふ。天子さまに抱きしめられるなんて光栄ですわ」

 こんな調子で乙女たちの王様ゲームは次第に過激さを増していくのだった。



 久々に軽いノリのお話を書いてみました。
やっぱりミレイはいいですね。シャーリーと並んでとても書きやすいです。
そういえば、この二人をルルーシュと絡めたのは初めてだったかしらん。
「君を見てると胸がドキドキ」なシャーリーを、また書いてあげたいですね。
あとは、ミレイが幸せになれるような話も作ることができたらいいんですけれども。

 それにしても、こうしてギアスのSSを書くと、
私はこの作品が大好きなのだとしみじみ感じます。

 それでは、再び皆さまとお会いできることを祈りながら。
inserted by FC2 system